経営者や事務担当者に役立つ歯科医院における有休管理の基礎を解説
2019年4月に労働基準法が改正され、全事業所において「年5日の有休取得」や「有休管理簿の作成」が義務化されました。歯科医院においてもこれらを守らなくてはなりません。
しかし、「有休管理簿を作ったけど、管理が面倒!」「スタッフが年5日有休を使用したか見逃しそうで不安…」など、ストレスを感じている方は非常に多いように感じます。
そこで、今回は有休管理をするにあたってのルールや有休管理簿の作成方法などを基礎から解説していきます。
- 1.『有休管理』とはなにをすれば良いか?
- 2.抑えておくべき有休付与の条件・ルール
- 3.有休管理簿は必ず作成しなくてはいけない?
- 4.抑えておくべき有休『消化』のルール
- 5.有休はクラウド管理がおすすめ
- 6.まとめ
1.『有休管理』とはなにをすれば良いか?
年次有給休暇(以下、有休)とは、心身のリフレッシュを図ることを目的として雇用者から賃金が支払われる休暇であり、スタッフが希望する時期に取得させることが原則です。
そのため有休管理をする際には、歯科医院内の業務を滞らせることなく、スタッフの働きやすさを向上させるために「取得」と「付与」のルールを正確に把握し「有休管理簿」を作成・運用して制度を整えることが重要となります。
2.抑えておくべき有休付与の条件・ルール
2-1.有休付与の条件
有休付与の条件とは、労働基準法第39条で以下のとおり定められています。
- ①雇入れ日から6か月継続して雇われている。
- ②全労働日の8割以上を出勤している。
“(年次有給休暇)
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して 、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
参考)労働基準法 / e-Gov 第三十九条(年次有給休暇)”
上記の条件を満たしている場合「全労働者」に有休を付与しなくてはなりません。これは、非常勤ドクターやパート、アルバイトにも該当します。
よって「当院では、日給ドクターに有休を与えていません。」というのは間違った有休管理ということになります。
2-2.有休付与日数
では週5日出勤しているスタッフと週1日しか出勤していないスタッフで付与日数が同じなのか、というとそれは違います。ここでは、有休の付与日数のルールについて解説していきます。
原則として雇用者は入職スタッフが前述の「有休付与の条件」を満たしていた場合には、入社から6か月目の日を「基準日(有休の権利発生日)」として、有休を10日付与する必要があります。そしてその基準日から1年経てば11日、2年経てば12日といったように有休を付与していくことになります。
通常勤務(週5日勤務)のスタッフは原則、表1のとおり付与することになります。
表1.通常勤務者の有休付与日数
パート・アルバイトなどの所定労働日数が少ないスタッフについては、週もしくは年間の所定労働日数に応じて「比例付与」することになります。比例付与の対象者は以下のいずれかを満たす方です。
- 週の所定労働時間が週30時間未満かつ、所定労働日数が4日以下
- 年の所定労働日数が216日以下
表2.比例付与対象者の有休付与日数※基本的には週の所定労働日数を使用します。
表2のとおり、週に1日しか勤務をしないパート・アルバイトにも有休は付与されます。
また、表上の付与日数は与えなければならない最低の日数であり、下回らなければこれ以上の日数を与えても良いです。付与された有休の請求権の時効は2年であり、当年使用されなかった有休は翌年に持ち越され、2年が経つと消滅します。有休の繰越上限は20日間と決まっています。
【例2】2022年4月1日入社のスタッフ(週5日勤務)
2022年10月1日 10日付与⇒有休残 10日
2023年10月1日 11日付与⇒有休残 21日(前年付与10日+当年付与11日)
2024年10月1日 12日付与⇒有休残 23日(前年付与11日+当年付与12日)
※2022年付与の10日はこの時点で消滅
仮に2022年10月1日~2023年9月30日の間に有休を3日使用した場合、残りの7日は翌年に持ち越されるので、2023年10月1日時点の有休残は前年付与の7日と当年付与の11日を足した「18日」になります。
図1.有休請求権の時効について
3.有休管理簿は必ず作成しなくてはいけない?
「年次有給休暇管理簿」(以下、有休管理簿)とは、スタッフごとの有休付与「基準日」、1年間の「取得日数」、「時季(有休を取得した日)」を管理するための書類です。
2019年4月、労働基準法の改正により年10日以上の有休が発生する労働者を雇用するすべての事業所に作成が義務付けられています。また、有休管理簿は「基準日」から1年間が作成期限となり、有休を与えた期間中及び当該期間満了後の5年間は保存する義務があります。
作成義務を怠った場合の罰金などは明記されておりませんが、取得に関する義務に違反した場合には罰則が設けられています。取得に関する義務などについては後ほど解説します。
図2.有休管理簿の例
参考) 厚生労働省 福井労働局 「年次有給休暇取得管理台帳」
有休管理簿は紙・エクセル・クラウド管理など、どの方法を選択してもかまいません。しかし、手動による管理は誤りが多く作業時間も多くかかるため、クラウドによる自動管理がおすすめです。
4.抑えておくべき有休『消化』のルール
4-1.有休年5日の取得義務とは?取得できないとどうなるか?
2019年4月、「有休管理簿作成の義務化」と同時に、有休が10日以上付与されている労働者の「年5日の有休取得義務」が付加されました。
「年5日の有休取得義務」とは、雇用者がスタッフに有休を付与した日から1年以内に、できる限りスタッフの希望に沿った取得時季を指定し「年5日」の有休を取得させなければならないということです。また、先ほどの有休管理簿の作成義務とは違い、こちらは違反した場合、労働者1人につき罰金30万円が科せられます。
スタッフ自ら請求・取得した有休が年5日を超えている場合や「計画年休」で年5日の有休を取得した場合には雇用者が別途時季指定をする必要はありませんし、してはいけません。
つまり
- 雇用者による時季指定
- スタッフ自らの請求
- 取得計画年休
いずれかの方法で年5日以上の有休を取得させればよい、ということになります。
4-2.有休の取得はスタッフの不利益となってはいけない?
労働基準法第136条には、雇用者が有休を取得する者に対して以下のとおり記載されています。
“第百三十六条 使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
参考)労働基準法 / e-Gov 附則抄 第百三十六条”
「不利益な取り扱い」とは、有休の取得を原因とした「賞与の減額」や「欠勤扱いの控除」の他、「皆勤手当を支給しないこと」などは認められていないということです。これらを行った場合、法律に反していることになります。
5.有休はクラウド管理がおすすめ
これまで述べてきたとおり有休管理には付与から消化まで、また有休管理簿の記載方法まで様々なルールが法律で細かく定められており、完璧に把握した状態で管理をすることは困難です。
また、全てを把握していたとしてもエクセルや紙資料を用いて手動で管理をすることは「付与漏れ」や「取得状況を確認しておらず、年5日取得できていなかった」などのトラブルに繋がります。そこで、積極的な活用をおすすめしたいのが勤怠管理システムです。
次に歯科医院に特化した勤怠管理システム「シカポチ勤怠」を使用することによって考えられるメリットをご紹介します。
- 自動で有休付与
∟スタッフの入社日などの必要情報を入力すると有休が自動で付与される
∟付与に伴う有休の消滅も自動で計算される - 「年5日の取得」達成に向けて「要取得日数」を自動で計算、管理することができる
- 申請、承認、有休管理簿の反映までをすべてシステム上でできる
- 保管義務がある有休管理簿をクラウド上で保存でき、必要に応じていつでも印刷して使用することができる
今回は「シカポチ勤怠」を例に挙げて、メリットを解説しました。
勤怠管理システムを使用することで、有休管理に関する事務作業が大幅に削減されることがわかり「ミスによりスタッフからの信頼低下が防げること」や「人事に関する事務作業時間の低減により、歯科医院運営に関する業務に時間と人を割くことができる」など与えられる効果は非常に大きいと感じます。
図3.シカポチ勤怠でできる有休管理
6.まとめ
今回は、有休管理の基礎として最低限抑えておかなくてはならないルールを解説しました。労働基準法改正に伴い、有休取得状況に応じて取得を促すなど、より詳細に「管理」をしなくてはならなくなりました。
また有休を正しく管理することはスタッフからの信頼につながり、魅力的な職場作りに直結します。勤怠管理システムの活用などを積極的に行い、より働きやすい歯科医院の環境作りにつなげましょう。